「あ、おはようございますっ!獄寺さん、
ちゃん」
「ハルさんっ、おはようございます」
朝、家からアジトまで獄寺の車に乗って来た
。
二人でツナの所まで歩いている途中にハルにばったり会った。
獄寺は
とハルの組み合わせはマズイと思ったのか少し気まずそうな顔をしたが、
もハルも互いに普通に接している。
そんな彼女たちを見て獄寺は驚いたが、同時に押し寄せたのは彼女たちへの感心と自分の思考の子供っぽさへの嫌悪感だった。
本当に互いに気にしていないだけかもしれないが、ハルは雲雀の婚約者。
は雲雀の元婚約者。
がハルを良く思っていないと言っても簡単に頷けるし、雲雀がまだ
に気を寄せているのも恐らくハルは分かっているだろう。
それにも関らず何もないかのように接する事が出来る彼女たちに感心し、逆に自分と雲雀の闘争心剥き出しの姿を思い出してなんだか呆れにも似た感情が支配する。
彼女たちは自分たちよりもずっと大人なのだ、と…。
「そういえばツナさんから聞きましたか?」
「なにをですか?」
「今日は
ちゃんたちの生活に必要そうなものを買いに4人で街に買い物に行こう!って事になっているのですが…」
「……おい、4人ってあと1人誰だよ」
獄寺の顔つきが一瞬で変わる。
この話の流れだとハルも一緒に行くということになる。
と、なるとあと1人と聞くと想像できるのは雲雀しか居ない。
雲雀とハルと一緒に買い物など獄寺にとって最悪意外の言葉は無かった。
なにより、
も嫌がるだろうと……。
「ツナさんです」
「え…?あ、あの…」
「恭弥さんは今日はお仕事があるので……。でも!ハルはツナさんやみなさんと買い物出来るなんて凄く楽しみです!」
「……十代目が?」
「はいっ!獄寺さんはツナさんが呼んでいたので行って下さい。
ちゃんっ、支度して二人が来るの待ってましょうっ!」
「はい」
獄寺が
に“行ってくる“と言うように目で合図するとそのまま走ってツナの所へ行ってしまった。
はハルの方を見ると彼女がとても楽しそうに笑うのを見てなんだか不思議な感情に支配された。
もし、今日一緒に行くのがツナではなくて雲雀だったら…彼女はこれ以上に楽しそうな表情を見せるのだろうか?
そのような考えが頭に巡り、彼女は答えの出ない問いに頭を傾げる。
何かが…何かがズレた気がした。
最もその“何か”というのは彼女にはわからないのだが…。
「あっ!ハル携帯部屋に置きっぱなしにしていたみたいです!ちょっと取りに行ってきますねっ」
「はい、ここで待っていますね」
ハルはスキップしながら部屋に戻って行く。
彼女はいつも元気一杯で、明るくて……。
感情をこんなにも外に見せられる彼女が
は、羨ましかった。
「
」
ハルの帰りを待ちながら呆けていると、不意に声をかけられ顔を上げると彼女の体は一気に硬直した。
「…きょ、や…さま」
「おはよう」
「お、おはよう…ござい、ます」
「………
、昨日の事は謝るよ。悪いことをしたね、ごめん」
「そ、そんな!恭弥様が謝ることなんてひとつも、ありません……」
突然雲雀が現れて彼女はどうしていいかわからず、昨日の事もあって気まずくて、でも声を掛けてくれたのが嬉しくて…どうしようもなかった。
昨日雲雀の前であんなに泣いて、申し訳ないと思っていたのか彼女は下を向いて俯いている。
そんな彼女を見て雲雀は仕方なさそうに笑って彼女の頭を優しく撫でた。
「許してくれるなら………」
そう言って雲雀が彼女に何かを握らせる。
は自分が手に握っているものを見て目を丸くしたが、はっと顔をあげて雲雀を見た。
その顔はとても優しい表情で、
は嬉しくて泣きそうになった。
「仲直りの、しるし」
「そう、昔の
の必殺技だよ」
「………覚えていて、下さったのですね」
がそういうと雲雀はフッと瞼を閉じて薄く笑った。
「
は単純だから、こういうのも変わってないんだね」
「それと、街に行くなら気を付ける事。ここは並盛じゃ、ないんだから……」
そう言って雲雀は歩いて何処かに行ってしまった。
彼女の手の中にあるひと包の金平糖は“仲直りのしるし“そして“はじまり“
「きょうやさまはどうしていつもおこってばかりなのですか?」
「君には関係ないでしょ」
「おかあさまがいっていました!おこりんぼのびょうきにかかるとおこっちゃうんだって!」
「何ソレ、そんなヘンテコな病気あるわけないでしょ」
遠い、遠いこれはきっと“はじまり“の記憶。
「きょうやさまー。おかあさまにきょうやさまのおこりんぼのびょうきをなおす、おくすりをもらってきました」
「……何これ」
「おくすりです!これは“ばんのうやく“というもので、わたしがかなしくてないているときもこれでなおるんです!」
「ふーん」
差し出された金平糖をジッと見つめる雲雀。
甘いものは食べないせいか、金平糖を見たことがないらしい。
デコボコとしたソレを物珍しそうに見ている。
に金平糖を差し出され、食べる気などなかったのに彼女にしつこく言われてひとつだけ口にほおりこんだ。
「……甘い」
今まで自分の事を全く相手にしてくれなかった雲雀が、自分の持ってきた金平糖を口にして、そして“甘い“との感想付き。
彼女は驚きと嬉しさいっぱいの表情で笑った。
「何でそんなに嬉しそうな顔で笑うんだい?」
「きょうやさまが、わらってくれました」
「っ……!」
嬉しそうに笑ってそう言った彼女に完敗したというように雲雀は優しく、笑った。
それが彼女たちの“はじまり“
「でも、なんでコレが薬なわけ?」
「これは、じぶんのなかの“わるいもの“がそとにでるとおかあさまのもっているビンにたまっていくのです!」
「…………」
「このとげとげしているものは“わるいもの“のかたまりで、これをたべてなくしちゃえば、“わるいもの“がきえるんです!」
「………そう」
「きょうやさまの“おこりんぼ“のかたまりは、さっききょうやさまがたべてなくなったんです!」
の母親の子供だましのような慰め方に雲雀は少しムッとしたが、金平糖が美味しかったのも事実。
仕方が無いので何も言わないでやった。
それから何かあるごとにこの“ばんのうやくのおくすり“がことごとく登場し、いつのまにか喧嘩したときにも登場するほどだった。
金平糖の数は“わるいもの“の数。
金平糖が多ければ多いほど反省するものが大きいのだ。
それ故、互いに渡された金平糖の数でどれほど怒ったか、悲しかったか、そんなことがわかる。
遠い、遠い
忘れていると思っていた記憶が綺麗に蘇って来る。
変わらないものとして―――――
は自分の手の上に乗っている小さな金平糖の包をみて思わず笑ってしまった。
その包の中には金平糖が8つも入っている。
過去最高記録だった。
その数は、これほど
が怒っていた、あるいは悲しかったように見えたのだという意味表示にもなるが、それでも手に乗っているのは可愛らしい金平糖。
自分の中の苛々が金平糖になって帰って来るのは何だか懐かしくて、嬉しかった。
これを食べてしまえば昨日の涙は無かった事になるのだから。
早速食べてしまおうとひとつ、またひとつ口にする。
「………甘い」
『あまいっておもうほどききめがあるんですよ!』
そう、小さい頃に雲雀に言って聞かせた事を思い出しながら……。
「
ちゃーんっ!」
ちょうど最後のひと粒を食べ終えたとき、ハルの声が聞こえて彼女はそちらに顔をやる。
「遅くなってごめんね、
ちゃん」
「い、いえっ。全然そんなことは…」
「ツナさんっ、早く行きましょうよーっ!」
「わ、わかったから。獄寺君、運転よろしくね」
「お任せ下さい十代目―っ!!」
ハルがツナの腕を引っ張って早く、早くとはしゃぐ。
「おい!アホ女っ!十代目を引っ張るんじゃねーっ!」
「はひっ!?ハルはアホ女じゃないですーっ!」
「まー、まー、獄寺君」
こんなやりとりを見て思わず笑ってしまう
。
ふと獄寺が
を見る。
「……なんか、イイコトでもあったのかよ?」
「えっ?」
「……………」
獄寺の口から“ヒバリか?“そんな問いかけが出る前に彼女は笑顔で告げた。
「それは、きっと金平糖の効果ですっ!!」
「………はあ?」
「それに、私…このように大勢で買い物に行くのは初めてなんです!」
彼女の言っている金平糖効果の事はよくわからなかったが、買い物に行けるから嬉しそうなのか、と獄寺の中で自己解決したらしい。
『その…私、あまり1人で遠出などをあまり許されないので…。』
『今回は、奇跡的にお父様が許してくれたのです。』
『だから…、1人で自由に何処かに行けるのももしかしたら最後かもしれないので……。』
『ちょっと遊んでみたい、と…?』
『はい!』
そういえば、こんなことを言っていたなぁ。と獄寺は薄く笑った。
そして、
の頭をくしゃりと撫でた。
「これからは、いつでも買い物くらい付き合ってやるよ」
獄寺が少し顔を赤らめながら呟いた。
は弾かれるように獄寺を見て嬉しそうに笑った。
「はいっ!」
「あーっ!獄寺さんと
ちゃんが桃色ピンクな――――」
「っるせぇ!イチイチこっち見んなっ!」
「獄寺君、顔真っ赤」
「じゅ、十代目までそんなこと言わないで下さいっ」
も二人につられて吹き出してしまって、獄寺がさらに声を張り上げたのは言うまでもない。
「お、お前まで笑ってんじゃねぇええええっ!!」
「へぇ、じゃあ
ちゃんは小さい頃並盛に住んでたんだ」
「はい、確か私が7歳くらいまで並盛で暮らしました」
「それにしても7歳って微妙な時期に引っ越したんだね。やっぱり家の仕事の都合?」
「…いえ、父は私たちと共に引っ越したりせずに並盛に留まっていたので……」
「何かあったの?」
「何も無かったとは思うのですが、なんだか私その頃の記憶が少し曖昧で…。別段気にしなかったのできっとささいな理由ですよ」
「まぁ、小さい頃のことなんて忘れちゃうよね」
街の中を自由に動き回れるのは彼女にとってあまり経験したことがない。
この間のボンゴレのアジトへ辿り着くまでの道のりは不安で不安で仕方が無かったが、今は獄寺やツナやハルと大勢周りに居て不安なんて欠片もない。
前に獄寺とこの辺りを歩いて来たのは確かなのだが、そのときはお店などを見ていなかったのでどうしても色々なものに目移りしてしまう。
誰かと街を歩きながら他愛ない話をして買い物をする。
まるで夢の中に居るような感覚だった。
「おい」
不意に横からグイッと引っ張られ、転びそうになった。
それも引っ張った張本人が支えて、阻止してくれる。
「フラフラ、フラフラ、見てて危なっかしいんだよお前は」
「すっ、すいません…。何だかはしゃいでしまって」
少し呆れたようにそう言った獄寺は彼女の手を取ってそのまま何も言わずに歩いて行く。
は引っ張られるようにつられて歩き出し、獄寺の方を見た。
やっぱり、少しだけ赤く染まっている頬に思わず笑みをこぼしてしまう。
「あっ!ツナさん!ハルここのお店気になってたんですっ」
「わかった、わかったからあんまり引っ張らないでーーっ!」
ハルがツナの腕をグイグイ引っ張ってお店に直行しているのを見て次はあの店に入るのかと獄寺の方を見る。
「獄寺さん、次はあのお店に――――っ?」
がそう言っても全く聞いていない様子で何やら周囲を警戒しているのを見て思わず言葉が止まった。
どうしたのだろう?
そう思ったけど、獄寺はすぐに何時も通りになってツナとハルの方へ歩いて行く。
気のせい―――
そう、思った瞬間乾いた銃声が鳴り響いた。
パァンッ―――――
「「「「っ!!!」」」」
「ハルッ!危ないッさがって――――」
パアンッ―――――
「キャァーーーーーッ」
ツナ達の方へめがけて放たれた銃弾はギリギリ当たらず、コンクリートへ被弾した。
周りの人たちは大声を上げながら逃げてゆき、その混乱の中でもまだ銃声は鳴り響く。
「―――クソッ、…の野郎ッ」
隣の獄寺がそう呟いたかと思うと繋いでいた手がするりと離れた。
「十代目ッ―――――」
獄寺はツナの方へ走って、彼を守るように前に立つ。
離れた手。
は彼らより少し離れた所で佇んでいる。
彼女には何が起こっているのか理解できなかった。
もちろん、こんな状況に初めて出くわした彼女はどう動いていいかもわからず、立っていることしか出来ない。
「テメェッ!街で暴れんのもいい加減にしやがれ!!」
「ボンゴレ十代目の首を差し出してくれりゃ、俺たちも大人しくするさ」
「ふざけんじゃねーッ」
目の前の敵ファミリーのものに反発するように声を張り上げる獄寺。
いつの間にかここには人は誰も居ない。
敵側は獄寺の反発に応えるように何発も発砲してくる。
はとうとう足がすくんで、その場に足を付いてしまった。
カタカタと震える彼女を見て向こうの1人がニヤリと口端を吊り上げた。
「そういや、そこのお譲さん。どっかで見た事あると思ったら、この前はありがとなぁ」
「っ!?」
「この前、あんたが獄寺隼人とぶつかってくれたおかげで俺は逃げ切れた」
「ッ!!!!」
『どこ見て歩いてんだよ!、!!ッチ……逃がしたか』
そう言えば――――
彼女の頭の中で獄寺と初めて会った時の映像が頭の中で再生される。
誰かを追っているようだった……。
「
ッ―――!!」
獄寺がハッと気がついたように
の方を見て叫んだ。
今の今まで彼女の事が頭からすっぽりと抜けていた。
ツナを守ろうと必死で、
の手を離した。
敵の拳銃が
の方へ向けられているのを見て獄寺は反射的に
の方へ駆ける。
「この前の礼と称して一番先に楽にしてやる」
―――――間に会え
―――間に会えッ!!
パアンッ―――――
目の前には、黒い影―――
誰かにギュっと抱きしめられる感覚にハッとした。
これは、この人は――――
「…………ッ―――」
え――――?
「……
、怪我、は…無い、かい?」
「きょうや、さま?」
震える手で彼の服を握りしめるとねっとりとなにかがまとわりつく。
止めどなく溢れてくるのは紛れもない血―――。
「気をつけろって……言ったよ、ね―――?
」
「イ、ヤ……恭弥、様―――ダメ」
「
ッ!無事かっ!?」
「恭弥様っ!きょうや、さま……」
獄寺が呼びかけても彼女には届かない。
雲雀にギュっと抱きしめられ、その腕の中で泣きながら雲雀の名を叫ぶ彼女。
助けたのは、あんなに近くに居た自分ではなく―――雲雀
敵がすぐそこにいるというのに、獄寺は目の前の光景に何も考えられなかった。
「また泣い、て……
は本当に、泣き…虫、だね」
―――やめろ
「べつ、に…銃弾一発くらい、じゃ…死なない、よ」
―――やめろ
「約束…した、でしょ?……
を、守るっ、て―――」
「恭弥様っ―――話さないで、もうッ……」
―――やめろっ!!!
あそこにいるのは俺だ
お前じゃナイ
お前じゃナイのにッ――――
「君を、守るのは……他の誰でもなく、僕だ」
雲雀を強く抱きしめ返している彼女を見て
彼もまた少しずつ、少しずつ
壊れていくのかもしれない
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