「ヒバリさんの容態は?」
「意識は戻りました。ですが、弾に毒が塗ってあったらしく良いとは言えないっスね」
「怪我の様子は?」
「撃たれたところが心臓のすぐ横だったみたいで……」
「獄寺君、何かあった?」
「ッ!な、なにをおっしゃるんですか十代目!別に何も……」
「じゃあ、
ちゃんは…?」
「………………。」
「そっか」
あれから敵に戦闘不能にされた雲雀に放心状態だった獄寺の他にあの場に居たツナが全て事を片付けたらしい。
一番の重傷を負ったのは
を庇って急所ギリギリの所に弾丸を撃ち込まれた雲雀だが、獄寺もツナも決して無傷ではなかった。
アジトに戻ってから雲雀は集中治療室へ運ばれ、意識は回復したものの敵の弾丸に毒が仕掛けてあったらしく状態はあまり好ましくは無い。
はというと、雲雀が病室に入ってからずっと雲雀につきっきりで周りの事は全く頭に入っていない様子だ。
獄寺が少しは休めと言っても黙って首を振るだけでそこを離れようとしない。
ハルはこの場は
に譲るつもりなのかあっさりとツナの看病に行ってしまった。
この状況全てにおいて獄寺は気に入らない様子だった。
買い物に行く前にツナに呼ばれた。
なぜ獄寺だけ呼ばれたのか……。
それは、未だに追跡中だった敵ファミリーがあの周辺に居るから厳重注意とのことだった。
元々は獄寺の仕事。
もちろん周囲の警戒はしていたし、敵もボンゴレと対等に戦えるほどのてだれという訳でも無かった。
他の任務で同じく彼らを見張っていた雲雀も合わせ、3人も幹部が居る状況で事が大きくなる筈がなかった。
いつもならこんな風にはならなかった。
一番の誤算は“
“だった。
自身が命を懸けて守るべき存在が“一人“では無かったことが獄寺にとっての最大の誤算。
自分の中で
とツナを秤にかけてツナの方が勝ってしまったのだ。
あの瞬間例え一瞬でも
の事が頭から離れ、ツナの元へ走ったのがその証拠。
彼女は自分がツナの元へ走った時どのように思ったのだろうか?
どんな気持ちで見ていたのだろうか?
では、自分はツナではなく
を守っていれば良かったのだろうか?
しかし、自分の役目はボスである十代目を守る事。
だからと言って大切な婚約者を見殺しにする事は出来ない。
そもそも
とツナは秤にかける対象としては少し違うのかもしれない。
もちろんツナの事だって守りたい。
けれども、ツナを守りたいとは少し違うが
の事だって守ってやりたい。
どちらも違った意味で一番大切で、それでもそのふたつを秤にかけたら自分はツナの方が勝った。
そんな自分に自己嫌悪で吐き気がした。
しかし獄寺は
の事も気にかかった。
彼女がまだ雲雀の事を好いているのは知っている。
それでも、彼女は獄寺と婚約する事を選んだ…筈だ。
昨日雲雀にキスをされ、戻ってこいと言われても彼女はそれを拒絶し、自分の所へ来た。
そして雲雀の事を引きずっているのは仕方ないとするが、雲雀を受け入れる事は許さないと言った。
自分にこんな事を言う権利があるのかどうかは微妙な所だが、彼女は少なからずその言葉に頷いた。
それなのに今日、彼女を離さないとでもいうように抱きしめた雲雀を
は抱きしめ返した。
状況も状況だったため、怖かったのかもしれない。
やっと来てくれた助けに安心して甘えたくなったのかもしれない。
でも、そこに居たのが獄寺だったら?
彼女は同じように獄寺に抱きついただろうか?
その場には獄寺もハルも居た。
彼女が獄寺とハル両方の居る前で雲雀に甘えたりするだろうか?
彼女は例え、誰かにすがりたい状況だとしても獄寺が居る前では絶対に雲雀の所には行かないだろうし、ましてやハルの居る前で抱きついたりするだろうか?
のような一般人にはあり得ないマフィアの抗争に驚いて何も考えられなくなったのだろうか?
それとも彼女も雲雀と獄寺を秤にかけて雲雀の方が勝ったから雲雀に頼ったのだろうか?
自分だって声はかけた。
それでも全くと言っていいほど彼女に自分の声は届いていなかった。
彼女にとってきっとまだ一番大切なのは獄寺ではなく雲雀なのだろう。
何しろ積み重ねてきた年月が違いすぎる。
だからといってこのまま彼女が雲雀と上手く行くように応援なんて出来るわけが無かった。
いつの間にか簡単に誰かに引き渡すなんて出来ない程に彼女にのめり込んでいた。
そんな自分に恐怖していた。
『きょやさま』
ああ、またあの夢か。
雲雀は意識の中でそう呟いた。
『
っ!?どこにいったの?
っ!』
『あぁ、恭弥さん。
を見なかった?あの子、今日は恭弥さんが来るからって庭に出て待ってるって言ってたのにどこにも居ないの』
ざわり、と胸騒ぎがした。
『
が、誘拐された…?』
『金が目当てで
を返す交換条件に一億円を要求してきた』
誘拐…?
『恭弥さんは、何も心配しなくていいのよ。大丈夫、
は必ず帰ってくるから』
気に入らない。
気に入らない……。
『
!良かった……。本当に良かったわ』
『……………。』
『怖かったのね。何も言わなくてもいいのよ。もう大丈夫だから』
『
様、誘拐されて帰って来てからお外に出たがらないんですって。前はあんなにお外で遊ぶのがお好きだったのに…』
『それだけじゃないわ。最近全然
様の笑顔を見ておりません』
『恭弥様が遊びに来ても奥様から離れようとしなかったんですって』
『
、怪我は無かった?何も………っ!!腕、痣になって―――』
『―――ッ!!っや!いやっ』
あんなに警戒心の欠片も無かった彼女に初めて拒絶された。
怯えた様子で小さくなって震えている。
―――殺す
をこんな風にした奴は許さない
『聞きました? 奥様の判断で催眠術の一種で
様の誘拐された時の記憶を消したって……』
『聞くも何も、
様の様子を見ていれば………』
『並盛は治安が悪いからと言って
様と奥様は引っ越す事が決まったらしいわ』
君がここに帰ってこれるように――――
『きょうやさまー。わたし、おひっこししなければならいのです』
『知ってるよ』
『ここにはかえってこれないのだそうです』
『うん』
『とおい、とおいところへ………』
『そうだね』
『きょうやさまにあうことができなくなるそうなのです』
『……うん』
『わたし、おりょうりも、そうじも、おはなも、おうたも、ぜんぶぜんぶがんばります!』
『うん』
『だから、だから―――――』
『
が帰ってこれるような並盛になったら迎えに行く』
『?』
『――――だから、それまで』
待ってて
君を守れるようになるまで
「あっ!恭弥さん目が覚めました?」
「……………
は?」
「無事ですよ。今、タオルを冷やすお水を替えに行ったのですぐに戻って来ますよ!」
一度意識が戻ってから薬を飲まされその後ずっと眠っていた雲雀はようやく目が覚めたのか、重たい体をゆっくりと起こす。
それを支えるようにハルが手を貸す。
雲雀はハルが座っていた椅子に掛かっていたものを見る。
「それで、君はさっきまでどこに居たんだい?」
「えっ!?えっと、ツナさんの所に………」
やはり。
雲雀は心の中で薄く笑った。
彼女が座っていた椅子に掛かっていたタオルはツナのものだった。
きっとこれから洗濯でもしに行くんだろう。
雲雀はハルを横目で見てから何一つ変わらない表情で言った。
「君のお遊びに付き合うのはここまでだ」
「っ!何が……お遊び、なんですか?」
「自分でも分かってるだろう?」
「ハルは……ハルは、お遊びなんかじゃないです。真剣に、ちゃんと…恭弥さんと―――」
「誰のために?自分のために、かい?」
雲雀の表情は変わらない。
しかし、彼女は慌てて何かをつくっているかのように余裕が無いように見える。
まるで今まで大切に大切にしていたものを壊されてしまったかのような表情だ。
「
ちゃんですか?
ちゃんが居るから、恭弥さんは―――――」
「僕がいつ君を受け入れると言ったんだい?」
「い、や……ダメです」
「僕は君と違って素直だからね。特別なのは
だけだし、他の奴らなんて興味もない」
「もう、“ごっこ“は終わりだよ」
ガラッ
雲雀がハルにそう告げると不意に部屋に誰かが入ってきた。
「おい、アホ女。いつまで10代目のタオルをテメェが持ってんだ!さっさと洗濯しやがれ!!」
「は、はひ!すすす、すみませんっ。」
獄寺が怒りを前面に出しながら扉の前に立っている。
ハルはすぐさま立ち上がり、タオルを持って部屋を出ようとする。
獄寺は要件は伝えたからと、
が部屋に居ない事に少し安堵してそのまま立ち去ろうとすると雲雀に呼び止められる。
「獄寺隼人。君に
は渡さない」
雲雀に睨まれながら言われて獄寺も反発するように睨み返した。
「その言葉、そっくりそのまま返すぜ……ヒバリ」
それだけ言うと獄寺はそのまま何処かへ行ってしまった。
ハルはそのまま立ちつくして雲雀の方へ振り返った。
「恭弥、さん………」
その呼びかけに反応するわけでもなく、ただハルの方を一度だけ見た。
彼女は手にしていたタオルをギュっと握りしめて部屋を後にしようとした。
ドンッ――――
「きゃあっ」
「ひゃあっ!は、はわわわわわっ、
ちゃん………」
「は、ハルさん。水、かかりませんでした?」
「だ、大丈夫です」
「そうですか、良かったです」
ハルが出て行こうとすると丁度
が帰って来てぶつかってしまった。
彼女が持っていた洗面器の水がこぼれそうになったがギリギリでこぼれなかったらしい。
は安心したような表情をみせたが、ハルは何だか浮かない表情だった。
そんなハルの表情を疑問に思ったが、次の言葉で
の鼓動が跳ね上がった。
「
ちゃん、少しお話があるのですが……この後よろしいでしょうか?」
「…お、はなし。はい、私は大丈夫です」
の手が急に汗ばむ。
何の話かなんて、言われなくても大体想像がついた。
洗面器を雲雀のベッドのすぐそばの台に置き、部屋の入り口で待っていたハルの所へ行く。
そのまま部屋を出て行くハルの後ろを付いて行った。
部屋を出る際に
は一度雲雀にぺこりと頭を下げると雲雀は安心したような、そんな優しい表情をしていた。
「あ、あのハルさん。お話というのは………」
ツナのタオルを洗濯機に入れてクロームに洗濯を頼んだハルはその後ハルの自室へと向かった。
部屋に入って
と二人で並んでベッドに腰掛け、ハルはぬいぐるみを抱きしめてずっと顔を埋めたままだ。
がついに痺れを切らしてハルに問いかけると、ハルは顔を上げずにそのままかすれるような声で
に問いかけた。
「
ちゃんの本当に好きな人は獄寺さんではなく、恭弥さん……ですよね?」
「そ、そんなこと……」
は最初からグサリと突かれたくない所を突かれて咄嗟に否定しようとした。
しかし、それもバッと顔を上げたハルと目が合うと途中で言葉が止まる。
ハルの真っすぐな瞳に見つめられて、誤魔化すような事は言えなかった。
「ハルさんには、本当に申し訳ないと思います。でも、私…まだ、恭弥様の事が―――好きです」
「
ちゃん……」
「さようならを言いに来たのも口実で、本当は……もう一度やり直したかったから。嘘だって言って欲しくて……」
今まで誰にも言えなかった事を口に出したら吹っ切れたように涙が溢れた。
ハルは何も言わずに黙って
の言う事を聞いている。
「恭弥様に婚約者が居たなんて知らなくて、私にも獄寺さんが居て……。それでも、恭弥様に優しくされると、どんなに些細な事でもどんどん好きになって」
「ハルさんが居るのに……。なのに私、もしかしたらって――――――」
「でも、こんな事誰にも言えなくて。獄寺さんだってよくしてくれるし、きっと獄寺さんとならうまくやっていけると思います。」
「でも、でも……恭弥様がいると、どうしても気になって、諦められなくて。諦めるどころか、好きで…大好きで、気持ちが溢れて、止まらないんです」
が泣きじゃくりながらそう言うと、ハルは彼女を優しく抱きしめた。
そんなハルの優しさに彼女の涙は溢れるばかりで繰り返すようにハルに謝る。
「ハルさん、ごめんなさい。ごめんなさい――――」
が謝るとハルの頬に涙が伝った。
が顔を上げるとハルは
同様、吹っ切れたように泣きだした。
「ハルなんて、ハルの方が……
ちゃんに謝らなければなりません」
「……ハル、さん?」
「ハルは、ハルは――――恭弥さんのこと、好きじゃないんです」
突然のハルの告白に
はどういうことだと一瞬頭が真っ白になる。
それと同時に何かが繋がった気がした。
「それなのに、
ちゃんから恭弥さんを取り上げて…好きでもないのにキスしたり、して…いました」
「……どうして、ですか?」
「だって、ツナさんが……ツナさんが恭弥さんと婚約してくれって、言いました」
は暫く動けなかった。
同時に彼女の中でズレた何かが元に戻った気がした。
今日、買い物に行く前に雲雀が一緒じゃないのにあんなに楽しそうだったのはツナが一緒に行くから?
感情を表に出す彼女の事だ。
婚約者である雲雀が仕事で一緒に買い物に行けないとなれば嬉しそうにするどころか拗ねて愚痴のひとつでもこぼすのではないか?
あの時感じた違和感の正体がやっとわかって、
はやけに納得してしまった。
「ハルは、ツナさんに出会った頃からずっと、ずっとツナさんの事が好きでした。将来はツナさんのお嫁さんになるんだって、ずっと思っていました。」
自分と、同じだった。
出会ったころからずっと好きで、雲雀のお嫁さんになるのが夢だった。
「でも、ツナさんは私じゃなくて私の親友の事が好きなんです。」
「………え?」
「ずっと片思いでした。それでも、ツナさんの役に立ちたくて同じマフィアになって支えたくて………」
「……ハルさん」
「そうしたら、ツナさんに『ヒバリさんの婚約者になって欲しい』って言われて――――」
「断ろうと、しました。最初は。ツナさんに、好きだって伝えたかった。でも、でも私が断ったらボンゴレが大変になるって知って………断れませんでした」
ハルの切り出した事実に
は思わず口を手で覆った。
ずっと好きだった人から他の人と婚約してくれないかと言われたら――――
もし、自分だったら雲雀から獄寺と婚約してくれといわれたら…どうするだろう。
きっと自分もハルと同じ選択をしただろう、と。
「恭弥さんが私と婚約するつもりなんてこれっぽっちも無いのは分かっていました。それでも、ハルはそれしか役に立てないから……。」
「周りから見たら婚約者に見えるようにって、それだけに必死になって」
「上手くいってる、ちゃんとやってるってアピールするみたいに恭弥さん関係の相談は全部ツナさんに聞いて貰って……」
「でも、
ちゃんが来てからの恭弥さんを見てたら……我慢できなくなって」
「今日だって、本当はツナさんじゃなく恭弥さんと買い物に行く予定だったんです。それを私が――――」
『今恭弥さんと
ちゃんを一緒にしたく無いんです!だって、元許嫁って…関係無いってわかってても、不安で……』
「ハルがそう言ってツナさんに来てほしいって言いました。恭弥さんを見てると、我慢しなくていいんだって……。私だってって――――」
心の内を全て明かした二人はお互いに泣きついて慰め合った。
我慢なんてしない。
今まで誰にも言わずに、ずっとずっと隠してきたのだから。
「
ちゃんには恭弥さんと幸せになって欲しいです。ちゃんと、一番好きな人と―――」
「で、でも…私は………獄寺さんだって……」
「獄寺さんも、恭弥さんも
ちゃんが決めた事ならきっと納得してくれます」
「私は……私はハルさんに、幸せになって欲しいです!」
「……
、ちゃん?」
「ハルさんの気持ち、凄くわかるんです。だから、だから――――――」
にっこりと優しく微笑んだ彼女はヒカリ
手を差し伸べてくれる彼女はヒカリ
「
ちゃん、お互いに頑張りましょうっ」
そう言って差し出された手を握った瞬間。
ヒカリヘまた一歩近づいたような気がした。
しかし、それがヒカリへ向かうのかカゲへ向かうかは誰にもわからなかった。
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