「スイカ!スイカ!光くん早くスイカ食べに下行こうよー。せっかくおばさんが切ってくれたんだから」
「ん、先行っててええで」
「言われなくともー!」
テンション高。
あんなにはりきって行ってもそんなに食べないやろお前。
中学最初の夏休みは部活が思っていた以上にあって、でもそれ以外は2年前から変わらない。
が、引っ越してきたあの小5の夏から。
「
ー、もさ吉はまだ小さいんだからあんまり遠くに行っちゃダメよ。
もまだこの辺わからないでしょ」
「うん、大丈夫。すぐ帰ってくる!行ってきます」
ラジオ体操から帰ってきた時、ちょうど隣の家から生まれて間もないもさ吉を連れて散歩に出る
をみかけた。
確か
が引っ越してきた次の日のことだ。
その時は挨拶にきたとき顔を合わせたくらいで、同い年というのは知ってたけど仲良くする気は正直なかった。
隣に同い年の女とかめんどくさい。
とか思っとった俺は柴犬なのにもさ吉という名前を付けられた犬に同情しながら家に帰った。
その日の11時頃に俺は本屋に出かけた。
特に買うものがあるわけでもなかったけど、暇だったから。
途中で通りかかった公園で
を見つけた。
さっき散歩に連れていったもさ吉も一緒に。
木の木陰でもさ吉を抱いて立っていた。
の腕の中でもさ吉がぐたっとしてて、ああ、暑さでバテたんか。
とか軽い気持ちで素通りしようとした。
少し離れたところで見てもなんとなく泣きそうなのが見てとれる女に関わるのが面倒やったから。
仲がええわけでもないし。
迷子かなんか知らんけど、ここで声かけて泣かれてもかなわんし。
女はすぐ泣く。
キモいとかウザいとか言うただけで泣く。
めんどくさい。
公園を通りすぎようとしたとき、一瞬足が止まった。
あんなに目に涙溜めて泣きそうな顔が笑った。
腕の中のもさ吉に笑いかけて、頭を撫でるとおもむろに歩きだした。
家とは反対方向に。
それから木の根っこに躓いてこけた。
もさ吉が自分に潰されないようにとっさに腕を伸ばしてこけた。
そのおかげで自分は顔面から転んだのに、起きあがった
は締まりのな「笑顔。
立ち上がった
は顎をすりむいてて、膝からも血が出てたけど、そんなのお構いなしに歩いていった。
反対方向に。
「おい」
はすごいと思う。
あの幼いひねくれた俺を動かしたんやから。
ついに俺は
に声をかけた。
「そっち、反対方向やろ。自分どこいくん?」
振り返った
を見て、思ったより血がすごいのと、顎すりむいてるのにも関わらずそのくりっとした目やほわほわしてる髪が可愛かったのを覚えている。
は俺をじーっと見たまま動かなくて、俺はハッとなった。
もしかしてこいつ、俺が誰なのか分かってない…?
失礼な奴やな。
「お前の隣の家に住んでる財前や、財前光」
そう言うと、納得したような顔を見せた。
「お隣の
です。
です」
「いや、知ってるから声かけたんやけど」
断言できる。
俺は今出会ったことない人種と出会った。
その事実は小5の俺にとってはものすごく衝撃的やった。
新人類や。
なんでこいつは迷子のくせしてこんなに緊張感がないんや。
自分ひとりでなんとかなると思っとんのか。
その自信は一体どこから……。
「お前、そっち反対方向やろ。更に迷子になるで」
「どこと?」
「お前の家や!話の流れで察しろアホ」
つい癖でほぼ初対面の相手に毒舌吐いてしもた。
ヤバイ、泣く。
そう思って
を見ても頭に???とかいう感じのものが見えるような顔をしている。
「お前、家に帰りたいんやろ?」
俺がそう聞くとふるふると首を横に振った。
は?
と、声には出さなかったが思わずそんな顔になってしまった。
「家の鍵、落としちゃった」
「はあああ?で、どこ行くつもりなんや」
「病院。もさが苦しそうだから」
家の鍵落とすって、アホやろ。
の両親は引っ越してきたばかりでなにかと忙しかったらしく、俺ら小学生は夏休みやけど大人は色々忙しいらしかった。
家に帰っても誰もいない。
仕方ない、仕方ないとはいえ小5の俺にはすごく勇気が必要だった。
俺の家に来いと言うのは。
「それなら、俺の家で待っててええで。病院行っても金ないやろ。」
「うん、お金ない」
「きっと暑さでバテてるだけやから」
「うん、そうかもしれない」
「親が帰ってくるまで俺の家居てええで」
「うん」
平然を装ってたけど、家に来いといったときはすごく緊張していた。
それにも関わらず
があまりにも緊張感がなさすぎて、最後にもう一度家に来いと言ったときは割と自然に言えた。
了承したみたいやったから、本屋にはいかずに帰ることにした。
「待って」
来た道を歩き出したら
に呼び止められた。
振り返るとさっき遠目で見た締まりのない笑顔。
「ありがとう、光くん!」
ああ、懐かしい。
今でも覚えているあの場面。
きっと、多分あのとき俺は人生という名の道を踏み外したんや。
夏がくるとやっぱ、思い出す。
俺はあの瞬間
新人類に恋をした
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